事業継続・災害対策
Vol.17 東日本大震災:被災企業の状況から見える事前対策の大切さ
このたびの震災で被害を受けられた皆さまには、心よりお見舞いを申し上げます。一日も早い復興をお祈りするとともに、被災地に限らず当分は余震(専門家はM8クラスを懸念)や誘発地震への備え、またこの大きな犠牲を教訓に東京圏や東海・中部地域をはじめ全国規模で活発化した地震災害への事前の対策が進展することを祈念致します。
1.今回の震災で被災された企業はどのような状況なのか
被災地に本社等の重要拠点をおく当社のお客様はそう多くはありませんが、支店や工場等の事業拠点を被災地域に保有するお客様は約500社にのぼります。そのうち、実際に直接被害を受け緊急支援を要請されたお客様も、金融機関などいらっしゃいました。当社では、断水の影響でデータセンター設備の一部機能が使用できなくなったお客様に、緊急交通路を使って救援物資・冷却用の水を搬送するなどの支援活動を行いました。
報道されている宮城県南三陸町のように、重要記録文書や住民台帳、コンピュータデータなど、業務活動の再開に不可欠なバイタルレコード及びそのバックアップまで消失、という事態はまぬがれたとしても、他の自治体等においても、住民基本台帳データ等の仮復旧をはじめとして、業務再開にかかる労苦・時間、被災住民支援の停滞などその影響は計り知れません。
当社のように、お客様の重要書類やデータをお預かりしている事業者でも被害が生じているようです。当社は幸いにして社員・施設ともにほぼ被害はなくサービスを継続することができましたが、関東地方でも、地盤の液状化現象により保管物が落下・散乱するなど、サービス機能を停止・中断せざるを得ない事業者が複数報告されています。また、非常用燃料の補給体制の問題などからお客様への集配サービス機能を一時失っているケースもあり、近い将来起こるとされている首都直下地震を前に事態は深刻です。
お客様の業務活動継続に不可欠かつ代替のきかない「情報・記録」の保全・管理を担っている我々の業界では、このようなときだからこそ、基幹サービス機能の保持・継続、そしてお客様の緊急事態支援・サポートに専念できる体制が求められています。
1995年1月17日の阪神・淡路大震災のときは、ポートアイランド地区やいわゆる「震災の帯」沿いの当社のお客様50数社が被災されました。当社関西センターに分散保管していたバックアップテープの緊急搬送や、余震・火災が続く中で非常時持出し文書やデータ等の緊急引取り要請が相次ぎ、当社は関東拠点からの支援体制を強化しながら最大限、対応致しました。
また、当社バックアップセンターの会員企業も被災し、一定期間災害時用システムでの代替運用を実施。お客様のデータセンターが復旧困難な状況のため、本番センター(アウトソーシング)に切り替えて数年間運用した、という災害復旧(情報システムのバックアップリカバリ)の事例もありました。
一方、震災直後から東京・中部・近畿等の被災地以外のお客様から、バックアップシステムの拡充やメンテサイクルの短縮の相談があったほか、お取引のない企業・団体等からも災害復旧計画(ディザスタリカバリプラン:DRP)策定支援などの問い合わせが相次ぎました。
2.とにかく、「備え」が大切
◇「想定外」のチェックを
この震災でも、いろいろな『想定外』が発生しています。国や自治体、各専門機関、また個々の企業において、そうした記録やデータの収集・整理、分析、そして対応策の検討が大切です。
気象庁や専門機関でも、プレート境界型(海溝型)でM9クラスの巨大地震、大津波など、ここまでの規模の想定はありませんでした。阪神・淡路大震災では地震の「空白域」が議論になりましたが、長い地球の時間感覚では、エネルギー蓄積のGPS測定技術などを使ったとしてもすべてを解明・予測することは困難です。しかし、「地震は防げないが、震災は防げる、減災する」という不断の想定練り直しこそが肝要です。
また、防災対策として初動・応急復旧・復興の要である、市町村、行政・自治体組織の多くが壊滅的な打撃を受けています。近畿各県による県単位分担支援協定に見られるように、周辺の自治体や、県、他県、国、あるいは民間との縦横・重層的な連携支援体制が重要です。
・JR東日本東北新幹線の安全停止(9秒前)、早期地震検知システムで脱線事故"0"
・携帯電話のアキレス腱「停電」、安否確認・緊急連絡方法の見直しへ
・ツイッターによる安否確認の活躍
・ホンダ「自動車・通行実績情報マップ」、競合各社との協力による情報連携サービス
・世界も驚嘆する日本の復旧力、震災後6日で高速道路復旧(事前の災害応急対策協定による準備)
など、いろいろな事柄から想像力をもって「想定」をチェックすることが大切です。
◇情報システムの復旧体制見直し
危機管理体制、危機対応計画の見直しとともに、情報システムのバックアップリカバリ、ディザスタリカバリ(BR/DR)体制の見直し強化が急務です。
今回の地震発生は、週末(金曜日)の14時46分でした。金融機関や自治体での窓口営業時間や、当日分のデータ入力が終了する時間、データバックアップの時間など、地震の発生時期や時間によって異なるデータの損失・業務中断リスクをいかに極小化するか、という視点も必要です。
政府(中央防災会議)の防災戦略や対策要綱などは、「東京湾北部」を震源とした被害想定に基づいています。東京都BCP策定支援事業による中小企業全35社の内、28社が東京湾北部や多摩直下地震を想定したシナリオで、実践的BCP(事業継続計画)を策定されています。
3.今できる事前対策
今回の震災後、当社のお客様からは、次のような動向が見られます。
まず、本社機能の一部や関東地方の事業拠点を、西日本、場合によっては海外に移管・移転する動きが見受けられます。また、重要文書やコンピュータデータ等について、当社関東地方の情報管理センターから関西地方のセンターへ移行したい、両方のサイトで二重の保管体制にしたいなどの相談もあります。
バックアップデータのリカバリ性を確実・迅速化するため、より直近のバックアップデータを取得できるよう、オンライン型サービス併用の検討も進みつつあります。
そして、計画停電対策として、バックアップセンターやバックオフィスのスタンバイ(利用予約)要請も数件あったほか、都市型データセンター等からの事前相談もお受けてしています。
◇地震災害対策の基本に立ち返り
情報システムや重要業務の所在地は、湾岸部・埋立地、幹線・渋滞道路沿いや屋外石油タンク近在など"危ない"ところは回避。避けられない場合には、代替方法や疎開策を講じ、備えを強化すべきです。
また、非常時対応の計画策定やテスト・訓練の段階から、実行上、経営トップと現場のシンプルなラインで、状況に応じた危機対応力の醸成が喫緊の課題となっています。
◇経営管理手法としてのERMやBCPも大切、しかし、総点検が必要
BCPは必要大事、しかしそれは一定の想定シナリオによる約束事に過ぎません。BCPの策定は、そのテスト・訓練で、非常時の感性や危機対応力を、組織や人に培うことが目的です。BCPのマニュアル「紙」を創り上げてひと安心し、放置していては、メンテナンスすら曖昧となり、かえって危険です。
もう一つの重要なポイントは、こうした自然の脅威による大規模災害時には、「継続」より、むしろ新型インフルエンザのパンデミック対応に見られたように、自ら「中断・縮退」「停止」し、被害の極小化と安全確認後の「再開」を期す、弾力のある"復原性"を軸にすべきではないかと思われます。
最後に. 被災企業にならないことが重要
自社が被災企業にならないこと、を経営目標に明確に設定。その取り組みによって、地域社会や取引先、サプライヤー、同業他社を非常時に支援救済することも可能となります(自助・共助・公助、そしてボランティアの側面支援や避難者雇用など)。そのために、在庫の調達ルートを複数確保する、代替策を用意する、拠点ごとに備蓄する、業界での仕様/規格の標準化を進める、事業所ごとの最小人員体制・在宅勤務、縮退運転・操業準備等の検討が急務です。
そして、復旧・復興の原動力でもある社員・家族などの個々人の無事、安全確保が、その大前提です。
自社が直接被災しなくても、震災対応の新たな業務が発生する可能性があります。当社でも、計画停電に対する取り組みに追われる中、一部のお客様から書類の閲覧依頼が急増しましたが、緊急対応や業務量の増大を「想定」していたため、何とか対応することができました。
当社は、お客様の事業継続をサポートするため、"いざ"というときの支援体制のさらなる強化に取り組む方針です。グループ企業や取引先全体の総合的なディザスタリカバリ、重要記録の書類・データの保全など、危機管理体制の整備についてご相談をお受けいたします。
本コラムの内容は、2011年4月現在のものです。
【執筆:当社総合企画本部 立山 博】
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