地震の被害と事業継続への影響調査 北海道胆振東部地震

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北海道胆振東部地震は2018年9月6日(木)に発生しました。最大震度7を記録した同地震は多くの死傷者、建物の損壊、液状化や土砂崩れ、広範囲の停電などの被害をもたらしました。

 ワンビシアーカイブズはお客様の情報資産を自然災害や事故などの脅威から守り、事業継続、再開の支援を使命とする企業として、被災地における被害状況や記録、経験の情報を収集し教訓として活かすべく被災地で調査研究活動を実施しました。今回は企業・団体の事業継続に役立つ情報を発信することを目的として、被災地の自治体や企業の担当者からヒアリングした内容や、事業継続に関する考察を紹介いたします。

北海道胆振東部地震の情報

地震の概要 (気象庁情報 10月29日17時現在)

発生日時

9月6日(木) 午前3時7分

規模

マグニチュード6.7 (暫定値)

震源の場所、深さ

震源 北海道胆振地方中東部  深さ 37km

震度

震度7   北海道厚真町
震度6強 安平町、むかわ町
震度6弱 千歳市、日高町、平取町、札幌市東区

人的・物的被害の状況 (人的および建物被害は北海道庁公表 10月5日10時30分現在)

人的被害

死者

41人

36人 (厚真町)

負傷者

691人

重傷17人、中等傷8人、軽傷666人

建物被害

全壊

385件

厚真町192件、安平町105件、札幌市51件

半壊

992件

安平町363件、厚真町278件、札幌市234件

一部損壊

7,409件

札幌市2,785件、安平町2,450件

重要施設・機能等

・室蘭市 石油コンビナート施設で火災1件発生  9月6日10時26分鎮火
・厚真町 火力発電所施設で火災1件発生   9月6日10時15分鎮火

ライフライン等の被害状況 (北海道庁および内閣府の報告を基に加筆作成)

区分

最大時の影響

道路

通行止め

 国道 4路線4区間、道道 14路線20区間、高速道路 4路線6区間

鉄道

在来線・新幹線 全面運休

空港等

新千歳 国内線・国際線全便欠航、その他 一部欠航

電気

6日 3時25分  停電 約295万戸 (全域)
7日 12時00分 同 約144万戸
8日 12時00分 同 約1万戸

水道

施設被害による断水 7市町 24,826戸
停電による断水    39市町村 43,509戸

通信

土砂崩れや地割れ、停電により固定電話・インターネット、および携帯電話に通信障害発生

その他

北海道総合行政ネットワーク(光専用線と衛星回線で構築)により、道庁は各振興局および179市町村役場との迅速な情報収集・連携対応を実施

 北海道胆振東部地震は我が国の気象観測において、1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震以来、6回目となる震度7の強振動を記録した。なお北海道厚真市の事前の地震被災想定では、最大震度は6弱とされていた。

 被害の特徴として、火力発電所の被災による広域(道全域)での大規模停電(ブラックアウト)が発生したこと、インフラの障害が電力に限られることが挙げられる。近年に発生した震災である熊本地震(2016年)、大阪府北部地震(2018年)ともにガス、水道が被害を受け管路の修復と安全な再供給に時間を要した。しかし、北海道胆振東部地震では管路の破損が一部に限られており、電力が復旧すればともに復旧した。

 また、2019年2月21日夜に胆振地方中東部を震源とする最大震度6弱の地震が発生した。これは北海道胆振東部地震の一連の地震活動であるとの見解が、気象庁から示されている。

被災地でのヒアリング結果

 ワンビシアーカイブズはBCPコンサルティング等の経験を有する専門家から成る調査チームを組織し、2018年11月7日から16日の期間、被災地に派遣した。調査チームは自治体、インフラ事業者、医療機関、農業関連、金融機関、サービス業等、大別して6業種の企業・団体を訪問して災害対策や被害状況に関するヒアリングを行った。

 本記事では自治体の情報システム担当者、医療機関の総務担当者、物流事業者へのヒアリング結果を例に紹介する。

自治体の情報システム管理担当者へのヒアリング結果

バックアップサイト構築やテープメディアへのバックアップが実施されており、非常用自家発電装置も装備されていた。ブラックアウト発生時には非常用自家発電装置への切替えも問題なく実施することができ、サーバ(サービスサーバ、データベースサーバ共)に影響が生じた事案はなかった。しかし、通信回線において利用主体である自治体側の通信回線の障害で、共通サーバの利用に影響が発生した。

医療機関の総務担当者へのヒアリング結果

大規模病院は自家発電装置を有しており、ブラックアウト時にも診療を継続することができた。しかし個人病院の多くはブラックアウトにより、電子カルテや投薬情報の閲覧ができなくなり診療の継続が不可能となった。また、災害拠点病院ではシステムの通常運用を保持できていたものの、周辺の拠点病院が停電により患者受入対応が不可能となった影響で、災害緊急医療・トリアージ対応に追われ初動期は混乱が生じた。

物流事業者へのヒアリング結果

建物や車両などへの物的被害は軽微であったが、一部の拠点を除いて自家発電装置を有していなかったため、現金輸送や緊急性と公共性の高い医療関連等以外の輸送業務は約1週間停止した。顧客との連絡にも支障が生じた。急遽対応しなければならなかったことが多く、災害時のサービスレベルに関する顧客との合意(SLA)や顧客との連絡方法の整理が十分でないことが課題となった。

事業継続の視点で見た地震の影響

 今回の北海道胆振東部地震では局所的に土砂崩れや液状化、建物の損壊などの物理的被害が発生したが、大きな影響を及ぼした事象としては日本で初めてといえる大規模停電、ブラックアウトが発生したことが挙げられる。事業継続の視点からは、ブラックアウト、局所的停電を問わず一定時間の停電への対策の重大性が明らかになったといえる。

 北海道は災害の危険の少ない地域として、データセンター、コールセンターなどの誘致が積極的に行われてきた歴史がある。今回の調査におけるヒアリング先でも、コールセンターを道内で運営していた企業は、道外との分散や緊急時の切替を検討するとのことであった。

 また、災害対応に必要なシステムが動かなかった経験から、障害対応システムやユーザへの情報提供用サーバを自家発電設備の整ったデータセンターに移行した企業もある。

ワンビシアーカイブズの見解

 災害を前提とした安否確認や非常食の備蓄、停電対策(ブラックアウトではなく局所・短時間を想定)といった個別対策は、東日本大震災以降普及が進んでいることを今回の調査を通じて認識した。一方で、有事においても継続すべき重要業務の選択や災害時における顧客とのSLA(Service Level Agreement,、有事におけるサービスレベルの合意)などの根本的な事前対応や、大規模停電のような事象への個別対策に関する課題が改めて浮き彫りになったと考える。

 想定される全ての事態に対策することはリソースの制約から現実的ではなく、有事にも継続するべき事業は何なのかを明確に定義し取捨選択を行うことが必要である。その上で、その業務を遂行するためにどのような対策が必要なのか、必要なインフラやリソースを確保することを含めて考えるのがBCP策定の原則である。

 個別対策の面では停電への対策が不可欠であることが明るみになった。電源確保の必要性は勿論だが、業務に必要な情報を電子データのみで管理することの是非についても検討が必要である。電源確保の対策を実施していても、発電機の故障や被災などで想定通りに機能するとは限らない。また、停電期間が長期化するなど想定を超えた事態が発生する可能性もある。災害時でも継続を要する業務の初動に必要な最低限の情報だけでも、電子データだけでなく紙媒体でもバックアップを確保しておくような対策を実施すべきと考える。

 また、電子データはクラウドで管理される流れが進んでおり、運用負担やスケーラビリティを考慮すれば、この傾向は今後ますます進展することになるであろう。クラウドサービスの選定の際には、BCPの観点から機能・性能を検討することは勿論必要だが、根本的な問題としてネットワークが使用できなくなれば手が届かなくなる場所に重要な情報を預ける危険を考慮すべきである。メインデータはクラウドで管理していても、バックアップは別サイト・別メディアで保管しておくことがBCPの観点から望ましいと考えられる。

まとめ

 今回は北海道胆振東部地震の概要と、被災地での調査から得られた情報、知見について紹介いたしました。本記事の内容が、お読みいただいた方の災害対策、BCP策定の一助になれば幸いです。

 ワンビシアーカイブズは今回の調査で得られた知見を活かしてサービス品質を高め、高度化するお客様の要望に応えられるように努めます。それに加えて、お客様のBCPの現状を踏まえて、有事に継続が必要となる重要業務の選定作業や業務遂行に必要な情報の選定、対策立案などBCP策定に関わるコンサルティング能力にも磨きをかけ、一層お客様のお役に立てるように努めてまいります。

 最後に、この災害により尊い犠牲となられた方々のご冥福を祈り、被害に遭われ今なお戦っておられる皆様に、改めて心からお見舞いを申し上げます。

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