危機管理対策における文書管理の重要性と保有期間

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危機管理対策における文書管理の重要性と保有期間

「その文書をいつまでどのように取っておくべきか?」これを明確に定め守ってゆくことは、非常に難しい課題です。ましてや企業や公共団体といった組織のなかで、組織のものとして保有している文書について決定するという取り組みであれば、なおさらでしょう。近年、この課題は企業等組織の運営における非常に重要な事項と位置づけられ、取り組まれているようです。

なぜ今、文書の取扱いルールや保有期間を定めようとする試みが重要とされているのか、それを理解するためには、昨今の企業や団体を取り巻く環境とその変化について理解しなければなりません。ここでは、環境の変化にともなう文書の管理体制構築の重要性について、事例を交えながら解説したいと思います。

記録管理の標準であるJISX0902-1(ISO15489-1)では記録の保存を、

保存(preservation):真正な記録を長期にわたり技術的、内容的に存続し続けられるようにするためのプロセス及び運用

と定義しています。ここで文書でなく記録と書きましたが、この"記録"とは、法的な証拠ともなる、"組織活動を正しく記した、変更ができない情報"です。そして"文書の保有期間"といった場合は、組織として何がどう行われたのかを記録した文書が、必要になったときにはいつでも確認することができるように取って置かれる期間、と言えます。企業の文書の保有期間=企業の記録が書かれた文書を保有している期間、ということです。

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なぜ文書管理が必要なのか

さて、昨今残念なことに、企業や団体のコンプライアンス違反による重大な事件・事故が後を絶ちません。特に食や建物、医薬に関する問題は、私たち消費者に直接被害が降りかかり、ときに生命をも脅かすことさえあります。組織トップの謝罪会見がテレビでも報道されますが、それを見て「ああ一生懸命謝っているし、直接この人たちが悪いわけではないから許してやろう」と思う人は、正直、誰もいないでしょう。それは原因や状況についての情報開示に著しい不手際が多く見受けられたからです。悪質な場合、記録の改ざんや隠蔽を意図的に組織的に、しかも意思決定の立場としては高い位置にいる人の判断で行ったケースもありました。今ではひとたび事件・事故が起きると、まず何かそのような、トップも含めた組織的な隠蔽なり改ざんなりが起こっている可能性があるのでは、と世間が敏感に反応するようになってしまっています。

一方、事故の発生に備え、工場などでの品質管理の過程できちんと手続きに則った文書が作成されていたらどうでしょう。過去に遡っての調査が可能となる"記録"を残すこと、これを元に速やかに原因が突き止められ、しかるべき対策と被害者への保障などの対応も検討されている仕組みがあることが、経営の姿勢として常に証明できているならば、その企業に対して抱く印象は不正を行った企業とは全く違ったものとなると思います。つまり文書管理への取り組み姿勢は、そのままその企業の「経営健全性」の評価基準になっているということを意味します。

このような観点から、自社の文書管理の体制整備を危機管理対策のひとつと捉えて、優先課題として取り組む企業が今後増えると思われます。

先に述べましたように、記録とは法的な証拠ともなる、組織活動を正しく記した、変更ができない情報のことです。したがって製品の安全性に関する記録を例としてあげれば、原材料から製品に至るまで、品質管理などの適正な措置が取られたうえで生産・加工がなされていることが間違いないと証明できる記録でなければなりません。それはつまり、たとえば不良品について行った検査であれば、その記載内容が改ざんされる可能性が無いことが担保されている記録、ということになります。さらに有効性の証明として、①記録としての効力が生じている期間は適正に保有されている、②不要になった記録については適正な手続きにのっとって抹消され、最新の情報が唯一の原本として残されている、③保有されている間に開示・閲覧が必要になったときは速やかに対応できる仕組みが整えられている、そういう記録である必要があります。

しかるべき記録管理の仕組み、すなわち重要性や機密性、運用性を加味した管理の体制を作るためには、まず一度、本当に必要な記録が含まれた文書がどれなのかを、オフィス内、書庫を問わず全て洗い出し、そしてその文書を「いつまでとって置くのか」を定め、実行する取り組みが必要です。

これまでは当社のお客様でも業界によって温度差がありました。金融機関と比較するとメーカーなどではどうしても、記録管理の面からの危機管理意識はいまひとつ低かったと思います。もちろんISO9001や27001などの取得を進めている企業では、それぞれ品質管理や情報セキュリティを証明するために、関連する文書は整理されています。しかしながら企業の意識のベースとして、記録そのものへの価値の認識が低い場合、認証などに対応するための形や制度だけが作られてしまいます。肝心の中身は個々人に頼っているために、いざというときに形や制度からはずれたことには対応できない、たとえば制度で定まっていない文書は出てこない、というような事態が発生してしまう懸念があります。これまでは、特に生産部門などの現場では意識が高くても、本来文書管理を主導すべき本社機構や管理部門で意識が低いという傾向がありました。が、ようやく全社のレベルで意識を向けられる機運が出始めたように思います。

情報管理意識を高く持たざるをえない金融機関ではもちろん、金融庁検査などに対応して、今まで以上に高いレベルでの体制構築にすでに取り組んでいます。ある金融機関では、システムの運用管理に関するログの一切を紙で出力されていますが、当社の書類保管サービスを利用されて、原本をお預けになっています。いわゆる内部統制への対応として、紙の原本性に対する有効性と、必要な際には容易に内容確認を行えるシステム、という観点で判断されての導入でしたが、ベースとして金融機関側で発生している多種多様な文書の洗い出し・評価付けが出来上がっており、最重要データとは何かということが厳格に定められているということがなければ、こういった高いレベルの管理は困難です。

これは金融機関ならではの特殊事例と思われるかもしれませんが、今後は、メーカーなどでも今まで以上に厳密な文書の管理体制の整備に取り組まざるを得ない状況へと、加速度的に向かうはずです。それは先に述べたように、管理体制の出来不出来がその組織への評価に直結しているからです。

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様々なリスクへの対応

危機管理の対象として、事件・事故はもちろん、地震や水害などの天災や爆発的流行が懸念される新種の伝染病への企業内集団感染も、併せて検討されるようになってきています。これらへの対策を検討するうえで、情報の分野ではコンピュータシステムに目を向けられがちですが、事業継続のために必要な情報として、コンピュータデータ以外の情報、たとえば紙媒体の情報が唯一であるといったものも当然存在するために、その保全体制も確保するべきだと考えられています。事件・事故の際には速やかに必要な文書を取り出せるようにしておくこと、災害時では持ち出せる、あるいは消失しても複製が疎開されていて利用できるようにしておくこと、という対策が考えられます。そのためには、外部施設での書類保管サービスや、バックアップデータ保管サービスを利用するのも有効な対応策のひとつです。

またベテラン社員が持つノウハウの消失リスクという課題も表面化しつつあります。これまで社員の頭脳にあったいわば職人の知識や経験が、少子化による伝承先の減少と、定年退職者の増加によって失われるというリスクです。技能はともかく知識はマニュアルなど文書化による後世への伝承が、今後あらゆるところで急ピッチに進められることになりそうです。ある建設会社で建築を始める前の地鎮祭の手順を知る社員が定年退職でほとんどいなくなってしまった話がありました。このままでは地鎮祭が執り行えなくなってしまうため、少なくなった手順のわかる社員たちの手によって地鎮祭執り行い方のVTRを製作したそうです。なんとなく微笑ましい話ですが、知識の流出と無関係ではなく、危機管理という点でより重大な問題を暗示しているように思います。

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文書の保有期間

さて、ここまで危機管理対策における文書管理の重要性について述べてきましたが、最後に保有期間に関する考え方にも触れておきたいと思います。

法律で定められていない限り、ある文書の保有期間はその文書に携わっている人が決定しなければなりません。時折「社内の文書の保有期間を決めたいので教えて欲しい」という相談をお客様から受けますが、当然のことながら同じ文書であっても価値判断が異なるため、保有期間を同じに設定することはできません。ただ、一概には言えませんが、最近の傾向として、より長い保有期間が設定されてきてはいるようです。

決定のポイントとして言えることは、文書はカテゴリーごとに分類しておかないと保有期間をうまく決定できないということです。それはもちろん重要度の評価が関係しているからですが、まとまり(たとえばファイル)を大きくすればするほど保有期間の決定が難しくなるだけでなく、適正な管理状態(セキュリティの対策等)も選択し難くなります。逆に的確に分類してあれば、同じまとまりの文書には保有期間に概ね同調や関連性が生まれます。

個人情報やインサイダー情報は時に身近な文書にも含まれていますが、個人情報取扱い事業者でなくとも、流出したことが明らかになった際「当社は個人情報取扱い事業者ではないので問題ない」と言う理屈は、当然のことながら説明責任としては通用しません。

文書管理体制を再構築するきっかけとして、監督官庁の指摘も想定し、説明責任の考え方に基づいて社内の文書管理について詳細な規程を作成、実践に取り組まれた企業も実際にあります。しかし、個々のファイルへの文書保有期間の設定作業には苦労されていました。解決手段として、①保有期間は一定数のパターン化を行い、そのパターン以外の設定はさせないこと、②オフィス保管年数+書庫保存年数=合計保有期間、という考え方で保有期間のパターンを設定すること、という提案を行いました。この方法のメリットは、個人の判断で勝手な保有期間設定が出来ないことと、文書の活用度合いを考慮した収納場所の線引きが保有期間パターンとして反映されるため、文書の特性に合った管理方法に移行しやすいということです。

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おわりに

昨今の事件・事故における不正や過失の多くは、内部からの告発が発覚の元であるケースも多いと言われています。内部告発者を保護する法律が整備され、組織ぐるみの不正はいずれ必ず白日の下に晒されるだけでなく、業界ぐるみの不正が常態化しているような場合は、業界そのものも正常化に向かわざるを得なくなります。不正な経営は隠し通すことができなくなってくるということになるでしょう。ですから、ある意味ではこれは良い方向に向かっていると言えます。しかしながら不正を行っていない企業であっても、経営が健全に運営されていることを客観的に証明できる体制の整備がなされていなければ、業界全体の信頼が損なわれている場合、企業としての信頼を取り戻すことができません。

危機管理対策という観点から、今一度、文書管理体制の整備、それも記録を含む文書の保有にかかわるルールを見直してみてはいかがでしょうか。

執筆者名プロフィール

執筆者名 経営企画部

株式会社NXワンビシアーカイブズ 

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