
2018年10月18日 (木)、福岡共同公文書館(福岡県筑紫野市)において、自治体向けワークショップ「公文書管理法時代における地方自治体のとるべき施策:公文書管理の具体的課題解決に向けて」を開催しました。今回は、福岡県の後援をいただき、九州大学大学院統合新領域学府との共催で、自治体の文書事務担当者を対象として、基調講演および課題共有と意見交換の場としてワークショップを企画しました。
会場の福岡共同公文書館は、日本で初めて県と市町村の共同方式による設置・運営をしている公文書館の事例として、全国的にも注目されています。
当日は、福岡県内のみならず、長崎県、佐賀県、熊本県、沖縄県の各地から自治体関係者33団体・48名もの多数のご参加をいただきました。以下、ワークショップの模様をご紹介します。
公文書管理法の施行から7年が経過し、この間、地方自治体においても、公文書管理の条例化や公文書館設置へ向けた取り組みが進められてきました。その一方、自治体によっては、各課における管理、特に歴史公文書の評価選別や公文書館への移管等の面で問題を抱えたままのところも多いようです。その原因として、公文書管理に対する職員の意識や各課における管理状況が十分でない、評価選別の基準や方法がない、情報公開制度や歴史公文書についての対応が難しいこと、などが想定されます。
福岡県では、県と市町村の共同方式による福岡共同公文書館の設置・運営という、画期的なモデルケースが提示されました。そこで今回、福岡県の後援により、九州大学大学院統合新領域学府と株式会社ワンビシアーカイブズとの共催で、基調講演およびワークショップによる課題共有と意見交換の場を企画しました。今回の企画が、現場で公文書管理にあたる実務担当者の一助となれば幸いです。
講師のご紹介
講師の岡崎敦先生は、九州大学大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻の教授で、専門はアーカイブズ学。特にアーカイブズ理論や、記録管理の専門職である「アーキビスト」の養成について、研究テーマとされています。最近では、国立公文書館が2017年12月に公表した「アーキビストの職務基準書」に関する検討会議の委員を務められています。
まず、公文書管理法の理念を再確認し、公文書管理を取り巻く内外の動向等について概観いただきました。その上で、先進的な取組み事例や福岡県の実践を通じて、自治体の公文書管理の現場において求められるレベルや現実に起こっている課題への対応、そして公文書の価値とは何か、今どのような発想が求められるのか、などについてお話いただきました。
公文書管理の展開を阻む課題として、不必要な情報を手許に置いておく危険性や、業務上の権限や責任の所在の不明確さが文書管理の混乱を招くこと、特定の個人に依存する業務の危険性について指摘されました。また、札幌市の事例を挙げながら公文書の価値が「歴史的価値」ではなく市民と行政にとっての「重要性」にあることを認識すべきこと、情報公開制度や住民・現場に根差した問題への対応が求められていることなど、現在の自治体を取り巻く環境や課題について、具体的な事例を挙げながら解説されました。その上で、公文書管理が自治体にとって、説明責任、業務・組織制度の合理化、地方自治の活性化という3つの効果をもたらすと結論づけました。
最後に、地方自治体の公文書管理に関する基本的な論点として、①業務の現場における公文書管理、②組織内での適正な公文書管理にもとづく利活用、③公文書管理を通じた外部や市民との連携促進、④公文書館と自治体との連携による公文書管理のシームレス時代へ、という4つを挙げ、その後のワークショップにつなげる形で講演を締めくくられました。
基調講演の後のワークショップでは、岡崎先生が挙げられた4つの論点について、現場担当者による意見交換と課題共有を企画しました。具体的には以下の4つのテーマと専門家によるコーディネーターを設定して、討論を行いました。
公文書管理を推進する行政上のメリット、担当部署と公文書館の役割分担、移管促進による現場業務の軽減・効率化と責任の明確化などについて
情報公開制度への対応、公文書のもつ公益性・公共性と市民への説明責任、まちづくりへの市民参加や民間企業・団体の関与などについて
業務の証拠性と現用性、コンプライアンスと行政監査への対応、過去の経験・知識の組織内での共有と新規事業等への援用、他部局による参照・利活用の促進などについて
記録管理の4原則(真正性・信頼性・完全性・可読性)の確保、分類整理・文書目録の作成と物理的保存と管理、歴史公文書の取扱いなどについて
以上、4つのテーマについて専門家による進行のもと、各グループに分かれて、お互いに課題や意見を出し合いながら討論を進めました。そして最後に、グループごとに話し合った内容を紙にまとめて全員の前で発表してもらいました。お互いに課題を持ち寄って話し合うというのは新鮮な試みだったようで、どのグループでもたいへん活発な討論が交わされていました。
ワークショップでの活発な討論の様子
ワークショップ終了後は、福岡共同公文書館のバックヤード見学をして閉会となりました。今回の企画は、予想以上の反響があり、公文書管理に関する現場担当者のみなさんの課題と問題関心の高さがうかがえました。
終了後のアンケートでも、「他自治体の事例が聞けて良かった」「担当者同士の意見交換は有意義だった」という声が非常に多かった一方、「時間が足りなかった」「もっとこのような機会を増やしてほしい」というご意見もいただきました。今回のワークショップを踏まえて、是非これからも継続的にこのような企画を開催していきたいと思います。
また、書庫スペースが足りない、永年文書の見直しをしたい、電子化の対応が必要、職員向けの研修を実施したい、など、公文書管理に関する課題がございましたら、記録管理の専門企業であるワンビシアーカイブズまで、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。
ご不明な点やご要望などお気軽にご連絡ください。