
物事を進めるうえでルールは必要です。文書管理でいえば、ルールがないと、担当者が個人机の引き出しに書類を詰め、他の社員が探せなかったり、その文書を誤廃棄しても誰も気付かないでしょう。文書管理のルールがないまま10年程度経過すると、オフィスのキャビネットには未整理の文書が溢れ、社内倉庫には足の踏み場がないほどに床に文書保存箱が置かれて、中に立ち入れなくなります。最早、何があるのか、何が無くなっているのかわからない状態に至ります。PDFなどの電子ファイルについても、クラウド、オンプレミスのファイルストレージの中を担当者がそれぞれでフォルダを乱立させ、業務上必要な際に該当する電子ファイルを探し出せなくなります。
文書には業務処理の過程で様々な情報が記載されており、いわば情報の塊です。文書管理にルールがないということは、情報管理のルールがないに等しいとも言えます。欧米では文書管理のルールは法務部が所掌していますが、これは、情報管理、知的財産権管理、リスク管理の一環として文書管理を位置付けているためでもあります。
オーストラリア、アメリカ等多民族国家では、様々な考え、習慣を持つ人々が一緒に仕事をする上で、業務処理の方法をマニュアル化し、それぞれの職責と責任範囲、そして業務処理の結果を文書化します。それは、個人に不要なリスク、責任を負わせない側面もあります。
日本の民間企業において見受けられる、オフィスのキャビネット、社内倉庫、ファイルストレージが文書で溢れ、無秩序な状態は、知的財産管理、情報管理、内部統制の何れにおいても機能していないと欧米では見なされます。
しかし、文書管理にルールを定めることには相当な時間と労力を割きます。また、そのルールの維持はルールを定める初期整備よりも何倍ものコストを費やします。文書管理の改善を始める前に、経営層にこの点を認識してもらうことは重要です。
また、文書管理の目的は各企業によって異なる部分があります。よく、ウェブにある汎用的なルールをそのまま使う企業も見受けますが、その企業固有の経営課題、業務上の課題と関係がないため、形だけのものになっています。文書管理のルールを定める前には、何を目的とするかを社内で議論するべきです。
加えて、社員が文書管理の重要性を理解していないと、ルールが維持できません。文書管理の取り組みを始める前、その後も定期的な研修を行い、従業員へ文書管理の目的や必要性を伝えることもポイントになります。
そのうえで、文書管理のルールに必要な要件は、「保存文書の種類を特定すること」、「保存文書の所在を把握すること」、そして「権限を設定すること」の3点です。
文書は業務処理の過程から発生するため、まずは各部署の業務を把握します。そして、それぞれの業務において、①法定保存文書、②契約等の交渉経緯の記録、③業務品質に関わるマニュアルや処理結果の証跡等、④会社の知的財産権に関わるもの、等を保存(管理)対象として特定します。何を管理(保存)すべか迷う場合は、この文書がなければ、どのような事態が最悪起こり得るのか、そしてそのリスクを負うことができるのか、というように、具体的にイメージしながら考えると、自ずと保存すべき文書は見えてきます。
保存対象について何年間保存するか悩む場合は、民法の消滅時効の考えが参考になります。民法では、一般的な契約であれば、「権利を行使することができる時から10年間」「権利を行使することができることを知った時から5年間」のどちらかが早く到来した時点で消滅時効が完成するとしています。一般的な契約であれば、終了後5年、あるいは10年で保存期間を設定すれば問題ありません。
そして、保存する文書とそれぞれに保存期間を決めた後、保存文書の種類を組織内で共有するために、いわゆる文書分類基準表、保存期間一案表等といった一覧表を文書化します。
文書がないということは、組織にとってリスクがあります。例えば、訴訟等で文書の開示を求められた場合で文書が存在しなければ、故意による廃棄であると裁判官が判断する恐れがあります。所定の手続きに則り廃棄していた場合でも、そのプロセスの記録がなければ、相手方が隠蔽と指摘する余地を与えます。
文書は毎年、大量に作成され、紙であればバインダー等にファイリングされたり、電子であれば文書管理システムやファイルストレージ等に電子ファイルが格納されますが、担当者がその保存場所をすべて記憶することはできません。そのため、所在情報(キャビネット番号等)や特定可能なIDを紙台帳や文書管理システム等に登録します。そして、文書を人間と同じく、住民票のように1つ1つの文書を管理し、その誕生(作成)から、転居(オフィスから社内倉庫等への移し替え)、死亡(廃棄)までのライフサイクルを記録する台帳が必要となります。
誰が、何を行うのか、が明確でなければ、業務標準化、品質チェック体制、失敗・不正のチェック・牽制が実現できません。文書管理についても、庶務担当者の努力、創意工夫、良識によって文書管理の品質が維持するのではなく、誰が何を行い、そのチェック(承認)を上長が行うといった体制を構築する必要があります。具体的には、文書管理の所管部署に統括責任者を置き、各部に管理責任者を設け、各部、課等の庶務担当に実務者とする一連の権限の体系を作ります。そして、それぞれが行うべき内容を定めて、文書管理規程等として文書化します。
官公庁においては、2011年4月施行の公文書管理法(公文書等の管理に関する法律、2009年7月公布)で文書管理についての権限(責任)が設定され、民間企業でも参考にできるため、ご関心があれば御覧ください。(内閣府の公文書管理制度についてはコチラ⇒)
具体的でないルールは、それぞれの担当者間で作業内容に差が生じます。他方、あまりに細部にわたるルールは継続できず、ルールと運用の間で解離します。文書管理のルールを定める際には、①具体的であること、②運用可能な範囲であること、の2点を上手く折衷することがポイントになります。
一度決まったルールについては、変更がない部分と可変的な部分にわけて文書化することも、規程の建付けを考える上でポイントになります。一般的に、規程は経営会議に諮ることが多く、実務レベルの軽易な内容変更を変えようとすると事務手続きが煩瑣になります。運用部分の可変性を確保するために、具体的な作業に関わる部分を所管部が加除可能な「マニュアル」等において定めて、常に実務に則したルールを維持することもポイントになります。
ルールが抽象的であったり、複数の解釈が可能な内容であったりすれば、それぞれの理解で運用し、品質が揃いません。文書管理について具体的にルールを定めるとは、文書の作成~保管(オフィスでの管理)~保存(利用頻度低下文書の社内倉庫等での管理)~廃棄といった文書管理の一連の工程を定め、紙書類のファイリングの仕方、文書の所在を把握する方法(文書管理台帳等の作成、更新方法)、オフィスから社内倉庫に移したり、保存期間満了文書を廃棄する方法等について、社内の如何なる部署であっても同じ手順を行えるようにその内容を文書化します。
ルールは具体的であるべきですが、守れないほどの細かなルールもまた形骸化を招きます。ルールの通りでは仕事にならないと社員が認識を持つと、規程やマニュアルの内容とは別の独自ルールを生みます。業務現場の繁忙度と文書管理に割くことができるリソースをイメージし、その中でリスクを負って簡素化、省力化する部分と必ず実施する部分のメリハリを付ける必要があります。 もし、必ず実施する部分について、社内のリソースでは維持が難しい場合は、外部の専門家の力を借りるべきです。文書管理が厳格な欧米企業でも、レコードセンターという文書管理を専門に行う部署を設けるケースがあり、集約して効率的に処理しています。
文書管理のルール策定の重要性をご理解いただいたと思います。その後の運用等についてお悩みの民間企業、公的機関の皆様に、NXワンビシアーカイブズでは、自在にカスタマイズでき、新しい文書管理を可能とする、レコードバンキングシステム「WAN-RECORD Plus®」を提供しております。
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執筆者名 ブログ担当者
株式会社NXワンビシアーカイブズ
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