保険の未来を変えるIoT活用術【前編】 ~リアルタイムデータで変わる保険の最適化と商品設計~

  • DX
  • IoT
  • インシュアテック
  • 保険

1.はじめに

(1)IoT(モノのインターネット)とは

IoT(Internet of Things)とは、センサーや通信機能を持つデバイスがインターネットを通じて相互に接続され、データを収集・活用する技術です。スマートフォン、ウェアラブルデバイス、車両、家電、工場設備など、あらゆる「モノ」がネットワークに接続され、リアルタイムで情報を交換し、遠隔操作や自動制御を可能にすることで、生活やビジネスをより便利にスマートにするなど効率化が進んでいます。

(2)インシュアテックとIoTの関係性

インシュアテックとは、「insurance(保険)」と「technology(技術)」を組み合わせた言葉で、保険業界におけるIT技術の活用やデジタル変革を指します。IoTはその中でも特に注目されている技術であり、リアルタイムデータの取得やユーザー行動の分析を通じて、保険商品の設計、リスク評価、顧客体験の向上に貢献しています。

(3)記事の目的と概要

本記事前編では、IoTで得られるリアルタイムデータによる保険の最適化について、技術的な枠組みから実際の保険ビジネスへの応用までを詳しく解説します。

そして後編は、具体事例の深掘り、未来のビジネスモデル、最新技術動向、海外・国内比較、市場展望などについて詳しく解説します

2.IoTがもたらすイノベーション

(1)IoTによるリアルタイムデータ取得技術

IoT最大の強みは、物理世界からリアルタイムで継続的にデータを自動取得できる点にあります。車載テレマティクス装置は、一秒単位で走行情報・危険挙動・位置情報を取得。ウェアラブルデバイスは心拍数、運動量、睡眠など健康情報を常時測定します。

IoTセンサーはスマートホームの防災・防犯に活用され、住宅設備の異常を瞬時に把握できます。こうしたリアルタイムデータは、保険商品設計やリスク評価、事故の検知・対応を飛躍的に進化させます。

(2)センサー・デバイスのバリエーション

IoTの普及で、センサーやデバイスの種類も多様化しています。

主な例として以下のものが挙げられます。

デバイス種別

主な用途

保険分野

ウェアラブルデバイス

保険加入者の健康状態(心拍数、歩数、睡眠時間、運動量など)をモニタリングし、日常活動を反映した健康保険設計に活用。

健康保険

生命保険

車載テレマティクス

運転データの記録。運転傾向・距離・速度・急ブレーキ等を把握し、個人ごとにリスク評価。衝撃検知による自動通報に活用。

自動車保険

住宅用センサー

火災・水漏れ・侵入(ドアの開閉)や室温(空調異常)を感知し、リスク低減と被害の早期発見、安全管理に活用。

住宅保険

産業用IoTセンサー

振動・温度・圧力・電流等により工場設備や物流車両の状態をモニタリングし、故障予防やリスクの可視化に活用。

企業保険

これらのデバイスは、保険契約者の行動や環境を「見える化」するだけでなく、センサー群を組み合わせて「マルチモーダルデータ」を取得し、単一指標では読み切れない複雑なリスク特性を、高次元データとして取り込むことで、精緻なリスク評価や高度な顧客体験設計が可能になります。

(3)IoTデータの収集・管理・活用の仕組み

IoTデバイスから取得されたデータは、クラウド上に蓄積され、AIや機械学習によって分析されます。このプロセスは以下のようなステップで構成されます:

STEP1.データ収集:センサーがリアルタイムで情報を取得

STEP2.データ送信:通信ネットワーク(Wi-Fi5Gなど)を通じてクラウドへ送信

STEP3.データ蓄積:クラウドストレージに保存

STEP4.データ分析:AIがパターン認識や予測モデルを構築

STEP5.意思決定支援:保険会社がリスク評価や商品設計に活用

この仕組みにより、保険会社は「過去のデータ」ではなく「現在の行動」に基づいた判断が可能となり、契約者にとってもより公平で柔軟な保険サービスが提供されるようになります。

3.IoTと保険の融合による新たな可能性

(1)リアルタイムデータによる保険の最適化

IoTの普及による保険業務の最大の変化は、リアルタイムデータ活用による「個別最適化」と「自動化」です。以下にIoT 活用が保険ビジネスにもたらす革新的可能性を整理します。

①リスク評価精度の向上

従来の保険では、年齢、性別、職業、居住地などの静的な情報に基づいてリスク評価が行われていました。しかし、IoTによって取得される動的なデータ(運転習慣、健康状態、生活環境など)を活用することで、個人ごとのリスクプロファイルを構築できるようになりました。

たとえば、車両の急ブレーキや急加速の頻度、夜間運転の割合などを分析することで、事故リスクの高い運転者を特定し、保険料の調整や安全運転へのインセンティブ提供が可能になります。

他にも、IoTのストリーミングデータ(設備挙動など)を活用した精度向上効果が期待できます。

  • 異常傾向の早期発見: 設備保険や企業保険で振動・温度・電流などの異常変動を検知し、将来的な故障リスクを予測。

  • 環境・外部条件との相関把握: 気象データ、道路状況、交通混雑、地形情報などを外部データとして統合し、センサー情報と合わせて複合要因モデリングを可能にする。

こうした精緻な評価を行うことで、従来モデルでは捉えきれなかった「行動変化・異常要因」に起因するリスクを前もって捉えられるようになります。

②保険料算出の個別最適化

リアルタイムデータは、個人の行動・状態に基づく「ダイナミックプライシング」を可能にします。安全運転や健康行動が継続されれば、保険料が即座に割引されるなど透明性・納得度の高い価格設定が実現します。

IoTデータを保険料反映へ用いる事例は米国・英国・中国等、多くの市場で拡大しています。利用状況に応じた保険料(Usage-Based InsuranceUBI)の代表例は、以下のようなモデルがあります:

  • Pay-As-You-Drive(走行距離ベース)
  • Pay-How-You-Drive(運転行動ベース)
  • Live-Well-Pay-Less(健康行動ベース)

③クレームプロセスの自動化

事故や損害が発生した際、IoTデバイスがリアルタイムで状況を記録・送信することで、保険金請求(クレーム)プロセスの自動化が可能になります。たとえば、FNOLFirst Notice of Loss)自動通報を活用して、車両事故時には以下のような流れが実現できます:

STEP1. 衝突センサーが事故を検知

STEP2 .GPSと加速度センサーが事故の位置と衝撃度を記録

STEP3. データが保険会社に自動送信

STEP4. AIが事故の状況を分析し、保険金支払いの可否を判断

これにより、契約者の負担が軽減され、保険会社の業務効率も向上します。

※査定の半自動化:画像認識(車両損傷・住宅被害)×現場映像の遠隔審査、部品見積り、修理手配のSTPStraight Through Processing)。

④事故検知・防止のリアルタイム通知

IoTは事故の「事後対応」だけでなく、「予防」にも活用されています。たとえば、スマートホームに設置されたセンサーが火災や水漏れを検知すると、契約者にリアルタイムで通知が届き、被害の拡大を防止できます。

また、工場やオフィスに設置されたIoTセンサーは、設備の異常や温度上昇などを検知し、保険会社と連携してリスク回避のアクションを促すことも可能です。

※先制的アラート(例:滑りやすい路面×急カーブで警告、水道圧異常でバルブ締め促進、機械振動異常で停止勧告など)。

(2)ユーザー行動に基づくカスタマイズ

IoTのもう一つの大きな可能性は、契約者の行動やライフスタイルに応じた保険商品のカスタマイズです。ここでは、3つの観点からそのメリットを解説します。

① ライフスタイル連動型商品の登場

従来の保険商品は「住居型・自動車型・生命型・医療型」など保険対象ごとに縦割りされていました。しかし IoT によって、ユーザーの日常行動・ライフスタイルデータを捉えることができれば、これらを横断的に連動させた保険商品(バンドル型・ライフスタイル型)が可能になります。

例えば:

  • 健康管理データ(歩数、心拍、睡眠)と自動車運転データを掛け合わせた「健康安全連動型自動車保険」
  • 住宅 IoT データ(防犯センサー、水漏れセンサー等)を加味して、生命保険・医療保険と組み合わせた「スマートホーム付き総合保険」
  • 旅行時行動データ、移動データ、宿泊データなどを基にした「旅行・移動リスク保険」
  • 企業保険では、従業員の入退館ログ・機器稼働データ・作業動線データ等を活用して「従業員安全行動保険」

このようなライフスタイル連動型商品を設計することで、顧客とのタッチポイントを拡張し、顧客ロイヤリティを高めることができます。

② パーソナライズされた補償内容

ユーザー行動データを用いれば、補償範囲・免責条項・付帯サービス(ロードサービス、健康支援、修理保証など)を、加入者ごとに最適化・カスタマイズできます。

例えば:

  • 運転頻度が低いユーザーには、走行距離に基づいた「夜間割引」や「低使用料率補償」の選択肢を提供
  • 健康状態や活動パターンに応じた特約設定(例:心疾患リスクが高い場合、日常検診支援特約を追加)
  • 補償対象範囲をモジュール型にし、ユーザーが自身の行動リスクに応じて自由に特約を選べる行動傾向に応じた無事故ボーナス・割引制度適用

このように、保険契約そのものを「可変・モジュール型」に設計することで、ユーザーの行動傾向を契約段階から反映できます。

③ 保険加入・更新体験の向上

UX(ユーザー体験)の観点からも、行動ベースデータを使うことで、加入・更新・見直しプロセスを最適化できます。

  • 見積プロセス簡略化: 行動データをすでに取得していれば、質問回答を省略し、リアルタイムデータを使って見積生成を即時化
  • インタラクティブ提案/シミュレーション: ユーザーの運転傾向・健康傾向を可視化し、「このままの運転を続けると保険料はどう変わるか」をシミュレーション提供
  • 更新時のダイナミック見直し提案: 契約更新時に、過去期間の運転/行動ログをもとに、新たな割引・特約の提案を行う
  • 行動誘導・ゲーミフィケーション設計: 安全運転・健康行動をインセンティブ化するゲーム要素(ポイント、称号、ランキングなど)を導入することで、顧客参画を高める

こうした体験設計を行うことで、単なる保険提供企業から、行動変革パートナーとしての立ち位置を構築でき、長期的な顧客関係強化につながります。

以上のように、IoT データおよび行動データを取り込むことで、保険事業は「静的評価型」から「動的・予測型・双方向型」へと進化し得ます。

まとめ

IoTで得られるリアルタイムデータによる保険の最適化について、技術的な枠組みから実際の保険ビジネスへの応用までを解説してきました。後編は、具体事例の深掘り、未来のビジネスモデル、最新技術動向、海外・国内比較、市場展望などについて詳しく解説します。

関連記事:保険の未来を変えるIoT活用術【後編】 ~国内外の保険IoT実例・最新インシュアテック動向を深掘り~

NXワンビシアーカイブズでは、保険の申込受付や保険金請求のバックオフィス業務を受託していますが、事務業務遂行とあわせて、事務業務の過程で取り扱う帳票・添付資料を電子化しAI-OCRで各種情報を抽出し、基幹システムやAIに投入するデータセットを作成する、AI機能搭載コンテンツ管理ストレージのご提供をするなど、お客様のDXを支援する各種サービスを展開しています。お気軽にご相談ください。

関連記事:インシュアテックにおけるビッグデータとアナリティクス活用の最前線

執筆者名プロフィール

執筆者名 

株式会社NXワンビシアーカイブズ 
ブログ担当者

お問い合わせ

ご不明な点やご要望などお気軽にご連絡ください。

お問い合わせフォームはこちら

お電話でのお問い合わせはこちら

03-5425-5300
営業時間
平日9:00~17:00

RECENT POST「業種別 : 保険,医療・製薬」最新記事

RECENT POST「目的別 : DX推進支援」最新記事

RECENT POST「サービス別 : AI-OCR,その他,電子化」最新記事

RANKING TOP3 ランキング上位記事

検索する
業種から探す
目的・課題から探す
サービスから探す

お問い合わせ

ご不明な点やご要望などお気軽にご連絡ください。

お問い合わせフォームはこちら

お電話でのお問い合わせはこちら

03-5425-5300
営業時間
平日9:00~17:00