
IoT(Internet of Things)とは、センサーや通信機能を持つデバイスがインターネットを通じて相互に接続され、データを収集・活用する技術です。スマートフォン、ウェアラブルデバイス、車両、家電、工場設備など、あらゆる「モノ」がネットワークに接続され、リアルタイムで情報を交換し、遠隔操作や自動制御を可能にすることで、生活やビジネスをより便利にスマートにするなど効率化が進んでいます。
インシュアテックとは、「insurance(保険)」と「technology(技術)」を組み合わせた言葉で、保険業界におけるIT技術の活用やデジタル変革を指します。IoTはその中でも特に注目されている技術であり、リアルタイムデータの取得やユーザー行動の分析を通じて、保険商品の設計、リスク評価、顧客体験の向上に貢献しています。
本記事前編では、IoTで得られるリアルタイムデータによる保険の最適化について、技術的な枠組みから実際の保険ビジネスへの応用までを詳しく解説します。
そして後編は、具体事例の深掘り、未来のビジネスモデル、最新技術動向、海外・国内比較、市場展望などについて詳しく解説します
IoT最大の強みは、物理世界からリアルタイムで継続的にデータを自動取得できる点にあります。車載テレマティクス装置は、一秒単位で走行情報・危険挙動・位置情報を取得。ウェアラブルデバイスは心拍数、運動量、睡眠など健康情報を常時測定します。
IoTセンサーはスマートホームの防災・防犯に活用され、住宅設備の異常を瞬時に把握できます。こうしたリアルタイムデータは、保険商品設計やリスク評価、事故の検知・対応を飛躍的に進化させます。
IoTの普及で、センサーやデバイスの種類も多様化しています。
主な例として以下のものが挙げられます。
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デバイス種別 |
主な用途 |
保険分野 |
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ウェアラブルデバイス |
保険加入者の健康状態(心拍数、歩数、睡眠時間、運動量など)をモニタリングし、日常活動を反映した健康保険設計に活用。 |
健康保険 生命保険 |
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車載テレマティクス |
運転データの記録。運転傾向・距離・速度・急ブレーキ等を把握し、個人ごとにリスク評価。衝撃検知による自動通報に活用。 |
自動車保険 |
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住宅用センサー |
火災・水漏れ・侵入(ドアの開閉)や室温(空調異常)を感知し、リスク低減と被害の早期発見、安全管理に活用。 |
住宅保険 |
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産業用IoTセンサー |
振動・温度・圧力・電流等により工場設備や物流車両の状態をモニタリングし、故障予防やリスクの可視化に活用。 |
企業保険 |
これらのデバイスは、保険契約者の行動や環境を「見える化」するだけでなく、センサー群を組み合わせて「マルチモーダルデータ」を取得し、単一指標では読み切れない複雑なリスク特性を、高次元データとして取り込むことで、精緻なリスク評価や高度な顧客体験設計が可能になります。
IoTデバイスから取得されたデータは、クラウド上に蓄積され、AIや機械学習によって分析されます。このプロセスは以下のようなステップで構成されます:
STEP1.データ収集:センサーがリアルタイムで情報を取得
STEP2.データ送信:通信ネットワーク(Wi-Fi、5Gなど)を通じてクラウドへ送信
STEP3.データ蓄積:クラウドストレージに保存
STEP4.データ分析:AIがパターン認識や予測モデルを構築
STEP5.意思決定支援:保険会社がリスク評価や商品設計に活用
この仕組みにより、保険会社は「過去のデータ」ではなく「現在の行動」に基づいた判断が可能となり、契約者にとってもより公平で柔軟な保険サービスが提供されるようになります。
IoTの普及による保険業務の最大の変化は、リアルタイムデータ活用による「個別最適化」と「自動化」です。以下にIoT 活用が保険ビジネスにもたらす革新的可能性を整理します。
従来の保険では、年齢、性別、職業、居住地などの静的な情報に基づいてリスク評価が行われていました。しかし、IoTによって取得される動的なデータ(運転習慣、健康状態、生活環境など)を活用することで、個人ごとのリスクプロファイルを構築できるようになりました。
たとえば、車両の急ブレーキや急加速の頻度、夜間運転の割合などを分析することで、事故リスクの高い運転者を特定し、保険料の調整や安全運転へのインセンティブ提供が可能になります。
他にも、IoTのストリーミングデータ(設備挙動など)を活用した精度向上効果が期待できます。
こうした精緻な評価を行うことで、従来モデルでは捉えきれなかった「行動変化・異常要因」に起因するリスクを前もって捉えられるようになります。
リアルタイムデータは、個人の行動・状態に基づく「ダイナミックプライシング」を可能にします。安全運転や健康行動が継続されれば、保険料が即座に割引されるなど透明性・納得度の高い価格設定が実現します。
IoTデータを保険料反映へ用いる事例は米国・英国・中国等、多くの市場で拡大しています。利用状況に応じた保険料(Usage-Based Insurance:UBI)の代表例は、以下のようなモデルがあります:
事故や損害が発生した際、IoTデバイスがリアルタイムで状況を記録・送信することで、保険金請求(クレーム)プロセスの自動化が可能になります。たとえば、FNOL(First Notice of Loss)自動通報を活用して、車両事故時には以下のような流れが実現できます:
STEP1. 衝突センサーが事故を検知
STEP2 .GPSと加速度センサーが事故の位置と衝撃度を記録
STEP3. データが保険会社に自動送信
STEP4. AIが事故の状況を分析し、保険金支払いの可否を判断
これにより、契約者の負担が軽減され、保険会社の業務効率も向上します。
※査定の半自動化:画像認識(車両損傷・住宅被害)×現場映像の遠隔審査、部品見積り、修理手配のSTP(Straight Through Processing)。
IoTは事故の「事後対応」だけでなく、「予防」にも活用されています。たとえば、スマートホームに設置されたセンサーが火災や水漏れを検知すると、契約者にリアルタイムで通知が届き、被害の拡大を防止できます。
また、工場やオフィスに設置されたIoTセンサーは、設備の異常や温度上昇などを検知し、保険会社と連携してリスク回避のアクションを促すことも可能です。
※先制的アラート(例:滑りやすい路面×急カーブで警告、水道圧異常でバルブ締め促進、機械振動異常で停止勧告など)。
IoTのもう一つの大きな可能性は、契約者の行動やライフスタイルに応じた保険商品のカスタマイズです。ここでは、3つの観点からそのメリットを解説します。
従来の保険商品は「住居型・自動車型・生命型・医療型」など保険対象ごとに縦割りされていました。しかし IoT によって、ユーザーの日常行動・ライフスタイルデータを捉えることができれば、これらを横断的に連動させた保険商品(バンドル型・ライフスタイル型)が可能になります。
例えば:
このようなライフスタイル連動型商品を設計することで、顧客とのタッチポイントを拡張し、顧客ロイヤリティを高めることができます。
ユーザー行動データを用いれば、補償範囲・免責条項・付帯サービス(ロードサービス、健康支援、修理保証など)を、加入者ごとに最適化・カスタマイズできます。
例えば:
このように、保険契約そのものを「可変・モジュール型」に設計することで、ユーザーの行動傾向を契約段階から反映できます。
UX(ユーザー体験)の観点からも、行動ベースデータを使うことで、加入・更新・見直しプロセスを最適化できます。
こうした体験設計を行うことで、単なる保険提供企業から、行動変革パートナーとしての立ち位置を構築でき、長期的な顧客関係強化につながります。
以上のように、IoT データおよび行動データを取り込むことで、保険事業は「静的評価型」から「動的・予測型・双方向型」へと進化し得ます。
IoTで得られるリアルタイムデータによる保険の最適化について、技術的な枠組みから実際の保険ビジネスへの応用までを解説してきました。後編は、具体事例の深掘り、未来のビジネスモデル、最新技術動向、海外・国内比較、市場展望などについて詳しく解説します。
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