保険の未来を変えるIoT活用術【後編】~国内外の保険IoT実例・最新インシュアテック動向を深掘り~

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前編の記事では、IoTが保険業界にもたらすインパクトについて、技術や仕組み、商品設計の側面から前編で詳しく解説しました。この後編の記事では、国内外の保険会社で展開されているIoTを活用した具体的な事例を紹介し、IoT保険の実像や、期待される価値をより深く掘り下げていきます。

1. IoT活用の具体的事例

(1)自動車保険 × IoT (テレマティクス保険等)

テレマティクス保険は、車両に搭載されたIoTデバイス(GPS、加速度センサー、OBD-IIなど)から取得される運転データをもとに、保険料を算出する仕組みです。契約者の運転習慣に応じて保険料が変動するため、安全運転を促すインセンティブとしても機能します。

  • 国内事例

東京海上日動「Drive Agent

AI搭載のドライブレコーダーが事故の予兆を検知し、リアルタイムで契約者に警告。事故防止とリスク低減に貢献。

  • 海外事例

米国:Progressive社「Snapshot

運転データをスマホアプリや車載デバイスで収集し、安全運転者には保険料割引を提供。

(2)健康保険 × IoT(ウェアラブルデバイスとヘルスケア)

ウェアラブルデバイス(例:Apple WatchFitbit)は、心拍数、歩数、睡眠時間、消費カロリーなどの健康データをリアルタイムで取得します。これらのデータは、契約者の健康状態を把握し、保険料の調整や健康支援サービスの提供に活用されます。

  • 国内事例
住友生命「Vitality」:健康活動に応じて保険料が変動する仕組み。契約者は運動や健康診断の結果に応じてポイントを獲得し、保険料割引や特典を受けられる。

(3)住宅保険× IoT(スマートホームセキュリティ)

住宅に設置されたIoTセンサー(火災検知器、水漏れセンサー、侵入検知センサーなど)は、異常をリアルタイムで検知し、契約者や保険会社に通知します。これにより、事故の未然防止や迅速な対応が可能となります。

  • 国内事例

セコム・ALSOKとの連携保険: スマートホームセキュリティと連動した住宅保険。火災や侵入の検知により、保険金支払いの
迅速化と被害の最小化を実現。

  • 海外事例

米国:State Farm × ADTとの提携: スマートドアベルやセキュリティカメラと連携し、事故時は自動通報・現場動画送信に基づくクレーム自動査定を実現しており、住宅の安全性向上に貢献。保険料割引の対象にも。

(4)企業保険 × IoT(工場・設備管理)<工場・設備のモニタリング>

製造業やインフラ業界では、IoTセンサーを活用して設備の稼働状況や異常をリアルタイムで監視しています。これにより、事故や故障の予防、保険料の最適化が可能になります。

  • 国内事例

あいおいニッセイ同和損保「DX ソリューションパッケージ」:IoTによる設備管理と連動した保険商品。予防保全と保険の融合を実現。防災・減災に資するソリューションの導入により、事故リスクが低減した場合には、その効果に応じた保険料割引を適用します。

2.IoTデータ利活用による保険の未来像

(1)データ駆動型ビジネスモデル

従来の保険会社は、契約者に補償を提供する「リスク移転型」のビジネスモデルが主流でした。しかし、IoTの普及により、保険会社はリスク予防・管理を支援するパートナーへと進化しています。

特徴的な変化:

  • 予測型モデルへの移行:過去の統計ではなく、リアルタイムデータに基づく予測分析
  • 動的価格設定:契約者の行動や環境に応じて保険料を柔軟に調整
  • サービス提供型保険:補償だけでなく、健康支援、安全運転支援などの付加価値サービスを提供

このようなデータ駆動型モデルは、保険会社にとっては収益の安定化、契約者にとってはリスクの低減と満足度向上につながります。さらに、こうしたビジネスモデルの変革により、保険会社は単なるリスク引受事業者から、データ利活用を通じたプラットフォーマーへと拡張できる可能性があります。

(2)持続的なリスクマネジメント

IoT によるリアルタイム監視・異常検知・予兆分析機能を持つ保険モデルでは、契約者のリスク変動を持続的に監視できるようになります。これにより、保険会社は次のような機能を実現できます:

(1)プロアクティブ対応

異常傾向を検知した時点で、契約者へ注意喚起や是正アドバイスを行い、事故発生を未然防止

(2)動的リスク再評価

契約期間中にリスクが変動した場合、保険料や補償内容を再調整(追加料率適用、割引適用、契約解除など)

(3)パラメータ調整型再保険連携

保険会社側でも IoT データをモニタリングし、再保険契約パラメータを動的に調整

(4)リスククラスター更新

リアルタイムデータを取り込むことで、リスク階層クラスターを継続更新し、統計モデルを時流適応的に改良

このように、従来型保険の「契約時点ベース」から、「継続モニタリングベース」への変革が進むと考えられます。

(3)新たなUX(ユーザー体験)の創出

IoTの活用は、保険契約者にとっての体験価値(UX)を大きく向上させます。従来の保険は「加入して終わり」「事故が起きたら連絡する」という受動的な体験が中心でしたが、IoTによって保険は日常生活に寄り添うサービスへと進化しています。

UX向上のポイント:

  • 加入・更新の簡素化:IoTデータにより、健康診断や運転履歴の提出が不要に
  • 事故対応の迅速化:リアルタイム通知と自動クレーム処理により、ストレスの少ない対応が可能
  • パーソナライズされた情報提供:契約者の行動に応じたアドバイスや警告を提供

保険加入・変更・クレーム申請がスマートフォン等でシームレスに行えるだけでなく、契約者は自分の行動や状態に応じて自動的に補償内容やプランがアップデートされる体験を得られます。こうした体験強化によって、保険会社は「保険を売る相手」から「行動改善パートナー」「生活改善支援者」へと位置付けを変えることが可能です。

(4)顧客エンゲージメントの強化

IoTを通じて保険会社と契約者の接点が増えることで、顧客エンゲージメント(関係性)の強化が期待されます。従来の保険は契約後の接点が少なく、更新時や事故時にしかコミュニケーションが発生しませんでした。しかし、IoTによる継続的なデータ取得とフィードバックにより、保険会社は契約者に対して定期的に価値ある情報を提供できるようになります。

(1)行動フィードバック循環

[行動ログ分析フィードバック行動改善ログ取得]という循環を通じて、契約者との継続接点を確保

(2)ロイヤリティプログラムとの連動

行動実績に応じて保険割引、特典、提携サービス優待などを付与

(3)クロスセリング機会創出

IoT データを基に、契約者に最適な保険商品や特約の提案をリアルタイムに行う

(4)顧客離脱抑止

行動変化傾向を把握し、離脱リスクを先行検知、早期フォローを実施

(5)パートナーエコシステム構築

提携企業(機器メーカー・スマートホーム企業・健康サービス企業等)と連携し、統合サービスを提供

このように、IoT ベースの保険モデルは、顧客との関係を一回性の取引から継続関係へと深化させる基盤になり得ます。

3.今後の展望と最新技術動向

IoT × 保険という分野は、技術革新と通信インフラ進化に強く依存します。本章では、AI との融合、5G/次世代通信、海外の先進事例と国内動向比較を中心に、今後の展望を整理します。

(1)AI と IoT の融合

IoT で得られる膨大なデータを活用する鍵は AI(機械学習・深層学習・強化学習など)です。IoT × AI 融合による次世代応用は以下の方向性を持ちます:

(1) オンライン学習モデル・適応型モデル

リアルタイムストリームデータに対してオンライン学習を行い、モデルを逐次更新する方式。モデル劣化を抑制し、変化環境適応性を高める。

(2) 異常・故障予知モデル

センサー時系列異常パターンを機械学習で学習し、故障や事故前兆を検知する予兆モデル。

(3) 強化学習による制御最適化

アクチュエータ制御(機械停止、パラメータ自動調整など)を強化学習モデルで最適化し、被保険対象の運用最適化を支援する。

(4) 異種データ融合モデリング

IoT センサー以外(気象データ、地理情報、交通情報、環境データなど)とのマルチモーダル融合モデルを構築し、総合リスク評価精度を高める。

(5) 説明可能 AIXAI

保険適用においてはなぜその評価になったかを説明する責任があるため、XAI を用いた可視化・説明可能性対応モデル設計が不可欠。

こうした AI モデルと IoT データの融合により、保険会社はより高度なリアルタイム意思決定支援を得られるようになります。

(2)5G 普及による新たな展開

5G(第5世代移動通信網)は、従来の 4GLTE と比較して以下のような性能向上をもたらします:

  • 超高速通信(数 Gbps オーダー)
  • 超低遅延(1ms レベル)
  • 多数同時接続(IoT 密集接続対応)
  • ネットワークスライスによる帯域保証

これにより、IoT × 保険分野でも次のような新たな展開が期待できます:

  • リアルタイム画像/映像伝送: 高画質なドライブレコーダー映像をリアルタイム送信し、AI 映像判定を活用
  • エッジ AI 処理連携: 5G エッジノード近傍で AI モデルを動かし、低遅延通知や制御を実現
  • コネクテッド車/自動運転連携: 車車間通信(V2V)、路車間通信(V2I)を通じ、リアルタイム交通情報連携型保険モデル
  • IoT デバイス密度対応: 1基地局あたり多数 IoT デバイス接続を支えるため、住宅/都市向け IoT 利活用強化

これにより、テレマティクス保険やスマートホーム保険、モビリティ保険などにおいて、リアルタイム最適化の性能が飛躍的に向上する可能性があります。

(3)海外インシュアテック最新事例と国内動向比較

① 海外先進事例

Lemonade(米国)

AI ボットによる簡易見積・契約・クレーム応答などを導入。今後 IoT データ連携を強化する計画あり。

※米国のLemonade社は2015年に創業した世界初のP2P型保険サービスで、AIIoTデータを活用した全自動型保険を展開。スマートフォンの自撮りで話すだけで保険申請でき、90秒以内の承認・支払いも実現。P2P型保険というコンセプトは、ユーザーとユーザーをつなげ、それまで中間にいた保険会社の概念を廃止することで、ユーザーのコストを下げることに成功。

さらに行動経済学を取り入れ、ユーザーがチャリティー団体を選びグループ加入する「ソーシャルインシュランス」制度を導入し、未請求時には保険料割引と団体への寄付がある。グループ内の道徳面を利用することで加入時に正直な申告を促す効果や粉飾請求のようなモラル・ハザードを防ぐ効果が期待されている。

②日本の動向と課題

日本でもインシュアテックの導入は進んでいますが、以下の課題が指摘されています:

  • プライバシー保護への懸念:IoTデータの取り扱いに関する法整備が不十分
  • 既存システムとの統合の難しさ:レガシーシステムとの連携に時間とコストがかかる
  • ユーザー理解の不足:IoT保険のメリットが一般消費者に十分に伝わっていない

とはいえ、国内の大手保険会社が積極的にIoTを導入しており、今後の市場成長と技術革新により、国内でもグローバル水準のインシュアテックが実現される可能性は十分にあります。

4.まとめ

(1)IoT によるインシュアテックの価値

本記事を通じて示してきたように、IoT(モノのインターネット)をインシュアテックに取り込むことは、保険業に対して以下のような価値変革をもたらします:

  • 静的リスク評価から、リアルタイム動的リスク評価 へ
  • 従来の画一的保険料から、個別最適化されたパーソナル料金設計 へ
  • 事故後処理中心から、事故予防・異常早期検知支援型保険 へ
  • 単なる保険提供者から、データプラットフォーマー・行動変革パートナー への進化
  • 顧客体験の高度化・顧客関係の深化によるロイヤリティ強化

こうした変革を実現できる可能性を持っているのが、IoT × インシュアテックという領域です。

(2)今後の市場成長予測

インシュアテック市場は、世界的に急成長を遂げており、IoTの役割はますます重要になっています。いくつかの調査や業界報告によれば、グローバルのインシュアテック市場は2023年時点で約80億ドル規模であり、2030年には300億ドルを超えると予測されています。さらに、5G 普及、AI 技術の高度化、スマートシティ・コネクテッド車の拡大などの環境トレンドも後押しとなり、IoT × 保険の市場規模は今後大きく拡大する可能性があります。

(3)読者へのメッセージ

保険はもはや「使うと損」ではなく、「使わないように支援してくれる存在」に変わろうとしています。IoT × 保険の融合はまだ黎明期にありますが、本質的には「未来の保険」を先取りする試みになると思います。まずは小さなパイロット実証から始め、技術・運用・ユーザー受容性を段階的に検証し、将来に向けた差別化を図られることをお勧めします。

社内外の最新事例・調査・技術進化を継続的に注視し、未来型保険実現に向け果敢にチャレンジされることで、保険会社・保険事業者の皆さまがこの潮流をいち早く取り込み、先行優位を築かれることを願ってやみません。

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