古文書を読む(4)―江戸時代のセーフティネット―

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セーフティネットの今昔

現代社会に生きる私たちは、各種社会保険や社会福祉、公的扶助、保険医療などの社会保障制度によって、生命や生活が維持できる仕組みになっています。

人びとが社会で生きるための保障の必要性は、現代も江戸時代も変わりありません。では、江戸時代の社会はどのような保障制度が存在し機能していたのでしょうか。「古文書を読む」四回目の今回は、「江戸時代のセーフティネット」について紹介します。

村落社会の相互扶助・救済

江戸時代の村落は、年貢米や金子を領主に上納するために個人個人が領主に納める形で「村請」(むらうけ)といって村が一括して引き受ける制度が成り立っていました。したがって、現代社会でしばしば耳にする「自己責任」という考え方は基本的に存在しなく、村全体の責任ないし、村内の五人ごとに編成された小集団である五人組(ごにんぐみ)の連帯責任となる仕組みとなっていました。村社会においては、五人組という隣家を中心とした小集団や村そのものがセーフティネットの役割を果たしていました。

江戸時代の相互扶助

江戸時代は、田植えの際に労働力を相互に提供しあう「結」(ゆい)や、「講」(こう)を結成することで相互扶助が行われていました。講は、伊勢講や羽黒講に代表されるように信仰を目的とした相互扶助を行っていたり、頼母子講(たのもしこう)や無尽(むじん)講のように経済的扶助を目的としたものなど、さまざまな形態があります。

寺院の役割

さらに機能としては、夫婦間の問題解決を図るための駆け込み寺慣行や、村内外で起こった訴訟の際に寺に行き謹慎する「入寺」慣行など、寺院がセーフティネットの機能を果たすことがありました。

江戸時代は、現代と同様にあるいはそれ以上に、度重なる風水害や天災により作物が不作となる年も多くありました。そうした不作時に備えて、村びとたちは平時から「郷蔵」(ごうぐら)に食料を備荒貯蓄し、必要に応じて村内の困窮者に貸与することを行っていました。こうした村びと達への救恤もセーフティネットの一つとなります。

村の「法」・「掟」

ここまで紹介してきた村の制度や機能としてのセーフティネットは、時として村の村法や掟書に取り決めとして証拠となる記載が出てくることもあります。

村法

ここでは、江戸時代にある村で作成された村法の一部を見ていきます。本事例の村法は、全十ヶ条からなるものです。

村法の第一条目には、「一.当村の儀は御四給に付古来より郷儀これあり候処、なおまた此度給々村役人立ち会い相改め左に書き記し置き候処、相違御座なく候」とありまる。これを訳すと、「当村は、四人の領主の支配を受けている村で、昔から「郷儀」(ごうぎ)が存在していましたが、この度四人の領主のそれぞれの村役人たちが立ち会って村法を左に書いてあるように改めて書き記したことは間違いありません」となります。

以前より存在した郷儀(村の枠組みをこえた広域的なつながりとして郷のこと)から改めて村として村法を作成し直すことで、村びと達は村内での生活上の取り決めを再確認していました。

また、村法の第七条目では「火之用心相互に心を付、若他村において村出火の節ハ早々火消道具を持参し罷り成り火消申すべく候事」と記載があり、火の用心を徹底しつつ、他村で出火があった際は、火消し道具を持って駆け付け、火消しを行うことが確認されています。実際に村内からどれだけの人数が駆け付けていたかは不明ですが、村全体でこうした治安維持機能を有していたことがわかります。

村掟

続いて、ある村の掟書をみていきましょう。今回紹介する掟書は全十ヶ条あるものです。そのうちの五ヶ条目には「一.壱組に付壱人ずつ百姓代を相立て、五人組の内にて壱人ずつ五人組の頭を立て諸事取締りにて相成り候様致し置き百姓代・五人組頭の儀は村役人相談をもって申し付くべく候」とあります。

武家社会の相互扶助・救済

武家社会の相互扶助

江戸時代、武家の社会では村落社会と同様に相互扶助や救済機能が成り立っていました。大名家の家臣は藩主より、大名家や徳川家家臣の旗本は、将軍家より拝借金を下付されていました。拝借金を下付されるタイミングは、不予の災害や困窮または、幕府の政策上、一定の階層に同時に拝借金を付与したりとまちまちでした。

加えて拝借ではなく、各人の仕事に応じて褒美金を拝領する機会も多くあり、武家の生活は日々の俸禄のほかに、臨時的・不定期に下付される拝借金や褒美金を合わせて成り立っていたといえます。

武家の御用金

武家はこうした下付金だけでなく、支配する土地の村や町、村役人などから御用金(ごようきん)を徴収することで、生活の維持に努めていました。御用金は武家にとっては家を守るための資金となりますが、御用金を上納する村役人や町人らには苗字や帯刀の許可を与えるなど、身分社会ならではの格式を付与するという金銭ではない見返りもありました。

また武家社会の相互扶助には、金銭的な扶助だけでなく跡継ぎがいない場合、武家の家を存続させるため親類・縁戚関係の構築も現代社会以上に重要で、そのため当主の急な死亡などに際しては、親類や縁戚縁者を頼って養子を選定するなど、親類・縁戚関係自体もとりわけ武家社会のセーフティネットの役割を果たしていたといえます。

まとめにかえて

ここまで、江戸時代のセーフティネットの種類とその役割について、村落社会と武家社会とを例にしてみてきました。村落で運営された郷蔵や講が果たした役割は、現代の国や都道府県、市町村自治体が果たす役割の一つでもありますし、また武家社会での拝借金の下付や御用金の徴収も、現代の給付金や各種増税の話と共通点が見いだせます。

現代社会のセーフティネットの仕組みや制度は、江戸時代において既にその原型が成立していたと考えることができます。

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執筆者名プロフィール

執筆者名 中谷 正克

株式会社NXワンビシアーカイブズ 

国立公文書館認証アーキビスト

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